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第6話 上司と部下②

Penulis: 葉山心愛
last update Terakhir Diperbarui: 2025-10-31 06:50:11

「加藤、レジの使い方を教えるから付いてこい」

「はい」

仲森さんは昔と違って口調はきついけど、教え方は丁寧で優しい。

昔と180度変わってしまった性格、変わっていない性格。

わたしを“加藤”と呼ぶ声。

少し寂しい気もしたけど、これでよかったんだよね……?

少なくともわたしはこれでよかったと思ってるよ……

“仲森さん”と“加藤”これで上司と部下としての関係が成り立った。

それから先は干渉しなければ問題ないのだから。

「加藤、分かった?」

「はい、ばっちりです」

特に機械音痴というわけではないので、案外簡単にレジの使い方を覚えられた。

仕事に集中しよう……

集中すれば、仲森さんのことや過去のこと……全て忘れることが出来すのだから。

この思い出しやすい環境にいたとしても……

「それから、レジは応対したお客様が会計する時に、各自俺たちがレジをすることになってるから」

「はい。分かりました」

それから接客において、一通りの注意を受けた後、いよいよ10時になり開店の時間に。

お昼辺りになっても未だ数組しか来店していない状態。

わたしだけじゃなくて、他の人たちも暇で暇で仕方がないって感じだ。

「やっぱり本店とは全然違うでしょう?お客が入らな過ぎて驚かなかった?」

ボケーっとしていたところへ、挨拶の時に一際目立っていた美人の人が話しかけてきた。

あれ……?この人って、確かジョンに全く興味を示してなかった人だよね……?

「えっと……?田畑……さん?そうですね、向こうは本場なので……まぁ」

胸についたネームを見ながら、彼女の名前を確認。

「やっぱりそうなのねぇ……あっ、それから私のことは幸でいいわよ」

この人は他の女性社員と違って、話しやすい人だった。

田畑たばたさちさん。

出来る女という言葉が相応しそうな、そんな完璧な女性だと思った。

そして、13時を回ろうとしていた頃……

「加藤、先に昼とっていいぞ」

「え……あ、はい」

仲森さんに“加藤”って呼ばれるのまだ慣れないなぁと思いながら、さっそくお昼にしようとした。

5人くらいしか入れないSTAR☆店の店員のみの休憩室でお弁当を広げた。

「……はぁ。とんでもないことになっちゃったなぁ」

「とんでもないことって?」

「へ……きゃっ!」

この中には誰もいないと思っていたのに、いきなり声がするものだから、驚いてパイプ椅子から転げ落ちそうになってしまった。

危ない、危ない……

体勢を整えて、ホッと安堵の溜息が漏れた。

わたしに声をかけてきたのは、キラキラのオーラを纏った幸さんだった。

「大丈夫?ごめんなさいね、突然話しかけたからびっくりしたでしょう?」

「あっ、いえ。大丈夫です……」

「そう……それにしてもあれは本当だったみたいねぇ」

わたしを見定めているようにジッと見つめられ、微かに聞こえてきたこの言葉。

あれ……?あれって一体どういうこと……?

「あっ、気にしないで。こっちの話だから」

「はい……?」

少し腑に落ちないまま、わたしの向かいに座る幸さんをちらりと覗いた。

さっきのは一体なんだったんだろう……?

まさかね……一瞬ある考えが浮かんだけれど、出来過ぎていると思ってすぐに頭から消去した。

「久しぶりの故郷はどう?」

「そうですねぇ。あまりに変わってて……ってあれ?わたし、昔ここに住んでたって言いましたっけ?」

「え?あ……あれ?さっき私にそう話してくれなかった?」

わたし、幸さんに話したっけ……?

たぶん話してないと思うんだけど……そう思いながら、先程の幸さんとの会話を必死に思い出していた。

やっぱり、話してないような……

「……あっ、そうそう。あの人から聞いたんだったわ。名前何だったかしら……ほら、あなたと一緒に来た……」

「ジョン……ですか?」

「そうそう。その人から聞いたのよ」

この歯切れの悪さ……かなり怪しい。

多くの疑問を抱きながらも、あえてそこには触れなかった。

「さっきも思ったんですけど、幸さんってジョンに興味ないんですか?」

「そうねぇ、かっこいいとは思うけど、別に興味はないわね」

「そうなんですか……。初めてです、ジョンに興味を示さなかった女性は」

いつでもどこでも女性にちやほやされているジョンばかりを見てきた。

幸さんみたいな、ジョンに靡かない女性は初めてで少し驚いてる。

「当たり前じゃない。私は彼氏一筋だもの」

「あっ、彼氏……」

そうだよね、こんな美人なんだから彼氏がいたって不思議じゃない。

「私に彼氏がいるの、そんなに意外だった?」

「いえ、そういうわけでは……」

「ふふっ、まあ、ジョンに興味を示さなかった人は私が初めてって言ったけど、まだいるんじゃない?」

「え……他に?」

誰かいたっけ……ジョンに興味を示さなかった人って。

わたしが知る限り幸さんが初めてだと思ったんだけど……

「あなたもジョンに興味ないように見えたけど?私の気のせいだったかしら?」

「あっ、確かにわたしも……」

「ねぇ、そうでしょう?確かに顔はいいけど、軽そうじゃない。私、ああいう人苦手なの」

なんだか気が合うなぁと思っていたら、幸さんと目が合った。

幸さんはクスッと笑うと、大人っぽい女性から一気に可愛い女性へと変化する。

本当に魅力ある女性だと思う、幸さんは。

今日会ったばかりだけど、幸さんとは上手くやっていけそうな気がした。

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